SPIKE STUDIO VISION 2040
――最適解を知るのは、誰だ?――
第2話 / 全4話

【合理的な破綻】
品質保証部の新チームとの初会合から、わずか数日後のことだった。
私と青井は、前田部長から『最優先フラグ』のついた緊急招集を受け、アルファ精機の《全社共通・最高機密レベル》のバーチャル会議室へ急行した。
バーチャル空間の室内にはすでに、R&D開発室の篠崎室長、現場チーフの吉岡さん、そして経営管理部長の与田氏が座していた。
異様なほどの緊張が、空気の温度ごと下げている。
前田部長は、数日前の穏やかさとは別人のような険しい表情で口を開いた。
「……実は、非常に厄介な事態になっているんだ。部署の垣根を超えて、あなたがたの力を貸してほしい」
部長の声には、疲労と焦燥が入り混じっていた。
彼が語った内容はこうだ。アルファ精機は、先日満を持して画期的な新素材の超微細分析機器を市場に送り出した。しかし、導入されて早々に顧客の現場からクレームが多発したというのだ。原因は、微細なノイズによる計測不能の多発。しかも、そのノイズの原因は、R&D開発部が導入した安価な汎用データ処理AIが、新素材の「微差の信号」を「ノイズ」と誤認識し、自動で消去してしまったことにあった。
篠崎室長は、蒼白な顔のまま言った。
「安易に汎用AIに頼った結果、自らの手で技術の核を切り捨ててしまった。しかし、もはや我々には手の打ちようがありません……」
それだけではなかった。そのノイズの発生源を、少し前までなら現場のベテラン技術者たちは五感と経験で特定できた。しかし、彼らは企業の硬直した体質に嫌気が差したのか、この数年で大量離職していた。
彼らだけが把握していた『手触り』のような暗黙知を、残さないまま。
技術継承も、ノイズ対策も、すべて同時に崩れ落ちていた。
私は胸の奥に冷たい危機感が広がるのを感じながらも、冷静さを保とうとした。
青井が口を開こうとした、その瞬間。会議室の天井スピーカーから、淡々とした合成音声が割り込んだ。
"SPIKE ZUNO" の声だ。
「緊急事態。市場公開データ、および他社AIの計算結果に基づき、『最適解』を提示します」
大型スクリーンに、二つの施策が即座に描き出される。
・R&D部門の大幅縮小(コスト最適化)・生産ラインの外部委託(短期収益化)
数値は合理的だった。論理的整合性に欠けるところはない。
しかし、その提示を聞いた与田氏の顔が、一瞬だけ強張るのを私は見逃さなかった。
「……最適解、か」
与田氏はゆっくりと立ち上がり、スクリーンに背を向けた。
「ZUNO、これだけは聞かせてくれ。この最適解が本当に『正しい』と断言できるか?」
短い沈黙。
「断言することは困難です。提示したのは、現在入力されているデータに基づく最良の近似解です」
その答えが、私の胸の中で何かを燃やした。
