FDEと客先常駐・SIerは何が違うのか|契約前に確認する5つの項目
FDEと客先常駐・SIerの違いは、契約の型・指揮命令権・要件を書く人の3点に集約されます。
AI開発の相見積もりを取ると、多くの会社が「現場に入って一緒に作ります」と書いていますが、本当に現場に入って支援くださるのか。提案書の見た目はほとんど変わらず不安になったことはありませんか。違いが出るのは契約書に落としたときで、完成させる義務が誰にあるのか、要件定義書を誰がいつ書くのかが型ごとに変わります。
ここを確認しないまま発注すると、動かなかったときに直す義務が誰にあるのか、仕様が変わったときに追加費用が出るのかが決まらないまま走り出すことになります。この記事では、次の問いに答えます。
- FDE・客先常駐・SIerの違いや、契約の型としてどう違うのか
- 常駐しているエンジニアに、発注側が直接指示を出してよいのか
- 何をもって「納品」とするのか
- 要件定義書は誰が、いつ書くのか
- 契約前に何を確認すればよいのか
目次
- 「現場に入って作ります」は3種類ある|まず契約の型で切り分ける
- 差1|契約の型 — 完成責任があるか、ないか
- 差2|指揮命令権 — 常駐している人に、直接指示を出してよいのか
- 差3|何をもって「納品」と呼ぶか
- 差4|変更が起きたときの扱い
- 差5|要件定義は誰が、いつ書くのか — SIerは契約前に発注側、FDEは着任後に一緒に
- 【対策】契約前に確認する5つの質問
- スパイクスタジオの支援事例|要件を現場で確かめながら作る
- AI開発の契約の型で迷ったら、スパイクスタジオへご相談ください
「現場に入って作ります」は3種類ある|まず契約の型で切り分ける
提案書に「現場に入って作ります」と同じ言葉が記載されていても、実務では3つの型に分かれるため注意が必要です。
- SIer型|請負契約が中心。要件定義書に基づいて完成させ、検収を受けて納品する
- 客先常駐・SES型|準委任契約。エンジニアが発注側の職場に常駐し、稼働に応じて報酬が発生する
- FDE型|顧客の現場に入り込むエンジニア。課題の発見から実装、価値の検証までを担う
FDEは Forward Deployed Engineer の略で、日本語では「フォワード・デプロイド・エンジニア」と呼びます。米 Palantir Technologies が生み出した職種の呼び名です。同社は2020年度の年次報告書(Form 10-K)で「Our forward deployed engineers (FDEs) have travelled to bases in Afghanistan and factories in the industrial Midwest to deploy our platforms」と述べ、現場に赴いて自社プラットフォームを展開する役割だと説明しています(Palantir Technologies Inc. Form 10-K, FY2020, 2021年2月提出)。
3つの型を並べると、違いは次のようになります。
| 確認する項目 | SIer型 | 客先常駐・SES型 | FDE型 |
|---|---|---|---|
| 契約の型 | 請負 | 準委任 | 準委任で結ぶことが多い |
| 完成責任 | ある | ない | 契約の書き方による |
| 指揮命令権 | 受注側 | 受注側(SES企業) | 受注側 |
| 要件を書く人 | 発注側(契約前) | 発注側(都度の指示) | 双方(着任後) |
| 報酬の決まり方 | 完成物に対して | 稼働時間に対して | 月額や合意した成果に対して |
| 向く場面 | 作るものが決まっている | 手を動かす人が足りない | 何を作るかが決まっていない |
「現場に入る」提案が増えている背景には、人手の不足があります。経済産業省の委託調査は、IT需要が高い伸び(年3〜9%成長)で推移した場合、2030年のIT人材の需給ギャップが約78.7万人に達すると試算しました。2018年時点でも約22万人が不足しています(IT人材需給に関する調査、経済産業省・みずほ情報総研、2019年3月)。自社だけで開発チームを組めない企業ほど、外から人が入る形を選ぶことになります。
差1|契約の型 — 完成責任があるか、ないか
いちばん大きい差は、仕事を完成させる義務があるかどうかです。
請負契約は、民法632条で「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約する」契約と定められています。完成が報酬の条件になり、引き渡したものが契約の内容に合っていなければ、受注側が契約不適合責任を負います。
準委任契約は民法656条に基づく契約で、完成責任はありません。専門家として業務を遂行すること自体に報酬が発生します。2020年4月に施行された改正民法では、稼働に応じて報酬が決まる「履行割合型」に加えて、成果の引渡しで報酬が発生する「成果完成型」が整理されました。IPA(情報処理推進機構)は2020年12月、この改正に対応した情報システム・モデル取引・契約書(第二版)を公開し、請負の契約不適合責任と成果報酬型準委任の位置づけを見直しの主な論点として挙げています。
発注側にとっての意味はひとつです。動かなかったときに直す義務が相手にあるかどうかが、この一行で決まります。「現場に入って作ります」という提案文には、この情報が入っていません。
差2|指揮命令権 — 常駐している人に、直接指示を出してよいのか
常駐しているエンジニアに、発注側の担当者が直接指示を出すことはできません。ここは契約書の名前ではなく、実態で判断されます。
厚生労働省は、昭和61年労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」に基づき、労働者派遣に該当するかどうかは契約の形式ではなく実態に即して判断するとしています(労働者派遣・請負を適正に行うためのガイドについて、厚生労働省)。契約書に業務委託と書いてあっても、発注側が働き方を直接指示していれば労働者派遣とみなされます。これがいわゆる偽装請負です。

SES(システムエンジニアリングサービス)は、法律上の契約類型としては準委任にあたる実務上の呼び名です。エンジニアへの指揮命令権は雇用主であるSES企業にあり、常駐先の企業にはありません。労働者派遣であれば派遣先に指揮命令権がある点が、両者のいちばんの違いです。なお労働者派遣法は、2015年9月30日施行の改正で特定労働者派遣事業の区分を廃止し、労働者派遣事業を許可制に一本化しました(平成27年労働者派遣法の改正について、厚生労働省)。
では、現場で密にやり取りしながら開発を進めるやり方は偽装請負になるのか。厚生労働省は2021年9月に公表した疑義応答集(第3集)で、次の考え方を示しています。
発注者側と受注者側の開発関係者が相互に密に連携し、随時、情報の共有や、システム開発に関する技術的な助言・提案を行っていたとしても、実態として、発注者と受注者の関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、偽装請負と判断されるものではありません
この文言はIPA・経済産業省「アジャイル開発版 情報システム・モデル取引・契約書」に引用されています。FDEでも客先常駐でも、この線引きは同じです。対等な関係で協働していること、開発の判断を受注側が自律的に行っていることが条件になります。
実務での確認は簡単です。日々の依頼を誰に、どの経路で伝えるのかを契約書と体制図で決めておきます。窓口を決めずに席だけ用意すると、良かれと思った直接依頼が積み上がります。
差3|何をもって「納品」と呼ぶか
納品の定義は、契約の型ごとに変わります。
- 請負|完成物。検収の条件を満たした時点で納品になる
- 準委任(履行割合型)|稼働。人月や工数に応じて報酬が発生する
- 準委任(成果完成型)|合意した成果の引渡し
ここが揃っていないと、打ち合わせの言葉が噛み合いません。発注側が「動くシステム」を納品と考え、受注側が「稼働した時間」を納品と考えていると、食い違いが表面化するのは検収の場になります。
FDE型を掲げるチームに頼むときは、何をもって成果と見なすかを先に決めます。IPAのアジャイル開発版モデル契約は準委任契約を前提にしており、作るものを固定しない代わりに、進め方と成果の確認方法を契約で定める構成になっています。「動く業務」で測るなら、どの業務が、どこまで動いたら成果なのかを文章にしておきます。
差4|変更が起きたときの扱い
要件は動きます。動いたときにどうなるかが4つ目の差です。
請負契約では、契約時に確定した要件が基準になります。あとから機能を足すときは変更契約を結び、追加の費用と期間を決め直します。手続きとしては明快ですが、作るものが決まっていない段階では成立しません。
IPAと経済産業省は、開発対象が確定していないのに一括で請負契約を結ぶことのリスクを、次の2点に整理しています(アジャイル開発外部委託モデル契約、IPA・経済産業省、2020年3月公開)。
- 対価と実際の工数が大きく乖離するリスク
- ユーザ企業とベンダ企業の利害が対立するリスク
準委任なら変更を織り込みながら進められます。ただし完成責任がないぶん、進み具合を確かめる仕組みを別に用意する必要があります。定例で動くものを見る、成果物の単位を小さく切る、といった運用がその代わりになります。契約の型を選ぶことは、この運用まで含めて選ぶことです。
差5|要件定義は誰が、いつ書くのか — SIerは契約前に発注側、FDEは着任後に一緒に
5つのなかで、発注の実務にいちばん効く差です。要件定義書を「誰が書くか」だけでなく、「いつ書くか」が型ごとに違います。
SIer(請負)|要件定義書が契約の前提になる
請負は完成責任を負う契約なので、何を完成とするかが決まっていないと見積もれません。要件定義書は発注側が契約前に用意するか、要件定義そのものを別の契約(準委任)で先に実施します。業務要件を書ける人が社内にいるなら、この型がいちばん速く、費用も読めます。
客先常駐・SES|要件を出すのは発注側のまま
常駐型は、手を動かす人が増える契約です。何を作るかを決めるのは発注側のままで、日々の依頼はSES企業を通して伝えます(差2)。要件を書ける人が社内にいない状態でこの型を選ぶと、人は増えたのに何も決まらない、という状態になります。
FDE|着任後に現場を見て、要件から作る
FDEは、要件が固まっていないところから始める前提の役割です。Palantirは採用ページで「We pioneered this unique position, embedding talented engineers directly with our customers to tackle their most pressing challenges head-on」と説明し、顧客のなかに技術者を置くこの職種を自社が生み出したとしています(Forward Deployed Software Engineer, Palantir Technologies)。国内でも、クラスメソッドが「顧客の現場に深く入り込み、『課題の発見→技術設計→実装→価値検証』を一気通貫で担うエンジニア」と定義した採用ページを公開しています(フォワード・デプロイド・エンジニア候補、クラスメソッド株式会社)。
最初に出てくるのは仕様書ではありません。小さく動くものを早く出し、現場の反応を見ながら要件を確かめていきます。

この差が効いてくるのは、作ったのに使われないという結果を避けたいときです。弊社が展示会DXPO(2026年)の来場者に実施した自主調査では、生成AIの導入率は87%、業務の効率化を実感した人は91%だった一方で、満足度は30.5%にとどまりました(スパイクスタジオ調べ、n=312)。導入は済んでいるのに満足していない、という状態です。要件を書いた人が現場を見ていなければ、この差は残ります。
発注側が用意するものも変わります。
| 発注側が用意するもの | SIer(請負) | 客先常駐(SES) | FDE |
|---|---|---|---|
| 要件定義書 | 契約前に必要 | 都度の指示として必要 | 着任時点では無くてよい |
| 主な役割 | 仕様の確定と検収 | 作業の依頼と受入 | 現場を見せる時間の確保 |
| 要件が固まっていない案件との相性 | 低い | 低い | 高い |
裏を返すと、要件が固まっていて期日も動かせない案件では、請負のほうが向きます。FDEは万能の型ではなく、決まっていない状態を前に進めるための型です。
【対策】契約前に確認する5つの質問
相見積もりの場で確認するのは、提案書の表現ではなく契約の中身です。次の5つを聞けば、3つの型のどれなのかが分かります。

実践ポイント|提案書ではなく契約書の案を出してもらう
5つの質問は、契約書の案を1枚見れば大半が確認できます。契約の型(請負か準委任か)、検収の条件、変更が起きたときの手続き、窓口と体制。提案書の段階で契約書の案を求めると、この4点が言葉で揃います。
自社に要件定義書が無い状態で請負の見積もりを取ると、金額は出ても中身が固まりません。まず要件定義だけを準委任で切り出す、あるいはFDE型で入ってもらって要件から作る。どちらを選ぶかは、社内に業務要件を書ける人がいるかどうかで決まります。判断の材料が足りないときは、自社に合う契約の型を一緒に整理するご相談もお受けしています。現状の課題を伺うところから始められます。
外部に頼む範囲の決め方は【デジタルトランスフォーメーション】DX支援サービスのメリットと活用法で、社内で書ける人を育てる進め方は【DX人材育成】デジタルトランスフォーメーション実現への課題と成功のコツで詳しく扱っています。
スパイクスタジオの支援事例|要件を現場で確かめながら作る
株式会社Circloopのシステム改修では、生成AIを全面的に活用し、開発業務の80%以上をAIが担当しました。従来の約1.3倍のスピードで改修を完了しています(2025年、弊社実績)。動くものを早い周期で出し、現場で確認しながら仕様を固める進め方を取りました。詳しい経緯は“使い捨て”をなくす、その先へ。株式会社Circloopが挑むリユーザブル容器の循環革命にまとめています。
研修から入った事例もあります。三井住友DSアセットマネジメントでは、全社の基礎研修と事務部門での伴走型のDX支援研修を実施しました(【前編】三井住友DSアセットマネジメント×スパイクスタジオ)。要件を書ける人を社内に増やす進め方です。
AI開発の契約の型で迷ったら、スパイクスタジオへご相談ください
スパイクスタジオは、要件が固まっていない段階からの相談をお受けしています。
- Spike AI Agent Studio|専任のFDEと開発を実行するAIがチームになる、月額定額のAIエージェント開発体制
- BPRコンサルティング|業務プロセスをAI前提で組み替える設計。構想から実行設計までを描きます
- AI人材育成|使う側・作る側・基盤層の三層に分けた研修。要件を書ける人を社内に増やします
「何を作るか決まっていないので相談しづらい」という段階でも構いません。決まっていない状態を整理するところが最初の仕事です。AI開発の進め方と契約の型についてご相談いただけます。現状の課題を伺いながら、自社に合う型を一緒に決めていきます。
