業務プロセス再設計(BPR)事例7選|ツールを入れても効果が出ない理由
AIで成果が出る企業と出ない企業を分けるのは、ツールの性能ではなく、既存の業務プロセスに合っているかどうかです。
生成AIを導入した企業は増えました一方で「入れたのに現場が変わらない」という相談も増えています。スパイクスタジオがDXPO東京'25夏の来場者に実施したアンケートでは、生成AIの導入率は87.0%、業務効率への寄与を実感した人は91.5%に達しました。一方で「生成AIの使い勝手や成果に満足していますか」への回答は、満足30.5%、どちらとも言えない62.5%、不満7.0%です(スパイクスタジオ調べ、回答200名、展示会ブース前での対面アンケート)。展示会の来場者への調査なので日本企業全体の代表値ではありませんが、使えてはいるが期待した変化には届いていない、という落差がここに表れています。
このような傾向は公的な調査でも確認できます。DX動向2025(情報処理推進機構、2025年6月公表)によると、生成AIを部署の業務プロセスに組み込めている日本企業はおよそ1割で、米国・ドイツのおよそ4割弱と開きがあります。業務プロセスの全社最適化に取り組む企業の割合も、日本34.8%に対し米国70.7%、ドイツ59.9%でした。
この記事では、次の3つに答えます。
- 業務プロセス再設計(BPR)とは、何を変えることか
- 実際に工程を組み替えた企業は何をして、どれだけ短縮したか(実例7件)
- 自社で始めるとき、ツール選定より先に何を決めるべきか
スパイクスタジオは、生成AI研修と、業務プロセスをAI前提で組み替えるBPRコンサルティングを手がけています。現場で実際に詰まる箇所をふまえて解説します。
目次
- 業務プロセス再設計(BPR)とは|ツールを入れても効果が出ない4つの理由
- 業務プロセス再設計(BPR) 事例7選
- 2026年に見られる傾向|個人利用から「工程への組み込み」へ
- 【AI導入】業務プロセスを再設計する4つの手順
- 業務プロセス再設計は スパイクスタジオにご相談ください
業務プロセス再設計(BPR)とは|ツールを入れても効果が出ない4つの理由
BPR(Business Process Reengineering=業務プロセス再設計)とは、既存の手順を前提とせず、業務の流れそのものを組み直す取り組みです。AIを活用するBPRコンサルティングでは、まず、この工程は「AIが担うか」「人が担うのか」を決めてその役割と手順を書き出します。ツールを既存の流れに足すのとは、出発点が違います。

理由1|既存の業務手順を変えずに、AIを足しているだけ
ツールを入れても効果が出ない理由の中で最も多い理由が「既存の手順を変えずに、AIを足しているだけ」です。The State of AI in the Enterprise(デロイト、24カ国3,235名の経営層・IT責任者調査)では、既存プロセスをほぼ変えずに表面的にAIを使っている企業が37%、主要プロセスをAI前提で再設計中の企業が30%、新製品や中核プロセスの刷新まで到達した企業が34%でした。3社に1社しか、業務そのものの作り直しを実施していません。
既存の業務手順を変えずにAIツールだけを導入しても、その効果を十分に引き出せない場合があります。一部の作業は効率化できても、前後の工程や確認作業がそのままであれば、業務全体で見た処理時間はほとんど変わらないこともあります。

理由2|効果を測っていないため、次の一手が決まらない
企業IT動向調査2025(日本情報システム・ユーザー協会、IT部門長対象・n=981)では、言語系生成AIの導入率は41.2%と前年度から14.3ポイント伸びました。効果が「あり」と答えた企業は73.2%にのぼります。ところが、その効果について具体的な測定を「行っていない」と答えた企業が59.8%でした。
導入前後の実態を測っていなければ、どの工程でどのくらい改善したかが分かりません。結果として、翌年の予算は「継続」か「打ち切り」の二択が検討しづらくなる可能性があります。
理由3|使ったきりで、現場に合わせて改善する仕組みがない
導入したツールが現場の文脈や業務知識を蓄積できないままだと、使い続けても精度や使い勝手が向上していきません。The GenAI Divide: State of AI in Business 2025(MIT Media Lab Project NANDA、2025年7月/公開導入事例300件超のレビューと52組織への聞き取り)は、企業向けに作り込んだ業務特化型の生成AIツールのうち、損益への効果が測定できる段階まで到達したのは5%だったと報告しています。レポートが主因として挙げるのは、技術基盤でも規制でも人材でもなく「学習」です。フィードバックが蓄積されず、現場の手順に合わせて変わっていかないツールは、そこで利用が止まってしまう可能性があります。
理由4|熟練者の判断が言語化されていない
業務のキーとなる判断が個人の頭の中にある状態だと、AIには判断することができません。製造業データ活用実態調査(キャディ、2025年10月)は、個人では生成AIを使っているものの、長年使い続けている自社システムが社内に残っていると答えた製造業従事者200名に、それを放置した場合の中長期的なリスクを尋ねています。挙がったのは「ベテラン社員の退職・異動により、特定の業務やノウハウがブラックボックス化する」が53.0%、「属人化されたノウハウが改善されず、生産性や業務標準化が進まない」が36.0%でした。判断基準がテキストとして書き出されていなければ、AIに渡す材料も、出力を確かめる物差しも作れません。
AIに与える情報として、言語化されていない部分を文字に起こすところから始めなければなりません。
業務プロセス再設計 事例7選
ここからは、2024〜2026年に公表された実例を7件紹介します。いずれも一次情報で数値を確認でき、かつ「人の役割と手順が変わった」と読み取れるものだけを選びました。
①製造業の再設計事例|Honda 熟練者の知識継承が3年から1年に
本田技研工業は2024年、熟練技術者のノウハウをモデル化する知識継承の工程にIBMのwatsonxを組み込みました。従来は資料に散在するノウハウを人が読み解いて構造化しており、モデリングに3年かかっていました。マルチモーダルなAIで抽出・構造化する工程に置き換えた結果、期間は1年に短縮しています(IBM 公式ケーススタディ「Honda」)。なお同じ事例で挙げられている「開発工数30%減・企画管理50%減」は、生成AIの導入前から使われていた既存の設計支援システム(A-ES)自体の効果です。生成AIが短縮したのは、そのシステムに載せるモデルを作る工程のほうでした。チャットボットの導入ではなく、知識継承という工程そのものを差し替えた点が要点です。
②建設業の再設計事例|大林組 構造設計の断面設計が1週間から1日に
大林組は2025年6月、構造設計の「断面設計」を自動化する支援プログラムを開発しました。熟練設計者の判断を数式化したルールベースAIと数理最適化を組み合わせ、試行・構造解析・評価という反復作業を自動で回します。従来1週間を要していた断面設計は1日に短縮されました(大林組 ニュースリリース、2025年6月24日)。設計者の役割は、計算を回すことから別案の検討と改良に移りました。
③食品加工の再設計事例|ソノファイ・富士通 目視検査をやめて全数検査へ
ソノファイは2025年4月、富士通の超音波解析AIを搭載した冷凍ビンチョウマグロの脂のり検査装置を発表し、同年6月に国内で販売を開始しました。従来は職人が尾を切って断面を見る抜き取り検査でしたが、超音波による非破壊の自動判定に置き換えたことで全数検査が可能になります。従来の脂のり判定と比べ、最大80%の省力化が見込まれます(富士通 プレスリリース、2025年4月9日)。検査を速くしたのではなく、切って見るという工程自体をなくした事例です。
④金融の再設計事例|京都銀行 融資稟議の合格ライン到達率が約30%から約95%に
京都銀行は2026年2月、NTTデータの融資稟議書作成AIサービスの導入を決めました。行内の複数システムからデータを集め、要約し、稟議書の素案を作るところまでを自動化しています。審査役の評価で合格ラインに達した素案の割合は約30%から約95%に上がり、最大で年間11,700時間の業務削減効果を見込みます(NTTデータ ニュースリリース、2026年2月25日)。文章生成ツールを配ったのではなく、融資判断で押さえるべき観点を先に整理した点が効いています。
⑤小売の再設計事例|ファミリーマート 発注業務が週6時間減
ファミリーマートは2025年、AIを活用した新しい発注システムを導入しました。従来は店舗ごとの経験と実績にもとづいて決めていた発注を、AIの販売予測と参照店舗の実績にもとづく提案に切り替えています。品揃えの改善提案や売場ボリュームの調整も組み込み、発注業務にかかる時間は1週間あたり約6時間削減されました(ファミリーマート ニュースリリース、2025年7月10日)。
⑥自治体の再設計事例|山形市 相談の一次対応をAIが担い、約83%を受け止める
山形市は2024年7月、孤独・孤立の相談窓口「つながりよりそいチャット」の運用を始めました。従来は社会福祉士などの専門職が平日の日中に対応する体制でしたが、相談者が最初に「AIか人か」を選べる形に組み替えています。傾聴型の生成AIが24時間365日の一次対応を担い、やり取りを専門職が確認して、支援が必要と判断したときに人が引き継ぎます。運用開始から約8か月で、相談約9,000件のうち約7,500件(約83%)をAIが対応しました。人が対応している件数のおよそ5倍にあたり、人件費に換算すると年約2,000万円相当と報告されています(総務省「自治体DX推進参考事例集」事例26/山形市 プレスリリース、2024年7月12日)。受付時間と対応の担い手そのものを変えた点が、単なる問い合わせ対応の効率化と違います。
⑦失敗から立て直した事例|JT 検索用途のPoCで成果が出ず、用途を組み替え
日本たばこ産業(JT)は、社内の資料検索に生成AIを使うパイロット検証を2023年から行いました。社内用語の文脈理解や複数の推論を組み合わせる問いで精度がばらつき、担当者は「検索を中心とした検証は想定した成果を得ることはできませんでした」と振り返っています。同社はこの結果を約200名が参加する全社イベントで共有し、用途を検索から生成・要約などへ転換しました。その後、プラットフォームの利用者は約600名まで広がっています(PwC Japanグループ、2024年4月)。
2026年に見られる傾向|個人利用から「工程への組み込み」へ
直近の調査を並べると、導入そのものは行き渡り、論点が「どの工程に組み込むか」に移っていることが分かります。
| 傾向 | 内容 | 影響・注意点 |
|---|---|---|
| 組み込み率の日米独差 | 業務プロセスに組み込めている企業は日本およそ1割、米独およそ4割弱(IPA DX動向2025) | 個人の時短で止まると、全体の処理時間は変わらない |
| 金融での急拡大 | 生成AIを利用中の金融機関は50.3%(前回31.0%)。試行中を含めると7割強(日本銀行、金融機関153先への調査、2025年9月) | 横並びの導入が進むぶん、差がつくのは工程の設計 |
| 自治体の二極化 | 生成AI導入済みは都道府県87.2%、指定都市90.0%、その他の市区町村29.9%(総務省調査、令和7年6月30日現在) | 規模の小さい団体ほど、業務の棚卸しから始める必要がある |
| 工程を分解して当てる | JFEスチールは実装・単体テストの工程に絞ってAIを適用。標準的なJava開発案件で対象工程の工数を約68%削減でき、開発全体では約20%の削減を見込む(日刊産業新聞、2026年5月12日) | 全工程に一度に広げるより、効果が測りやすい |
共通しているのは、成果を出した企業が「AIを何に使うか」ではなく「どの工程を誰が担うか」から考えていることです。
【AI導入】業務プロセスを再設計する4つの手順
ここからは、BPRで業務を可視化から再設計を行い、AIツールの導入を成功させる4つの手順を紹介します。
手順1|業務を工程に分解し、AIを当てる工程を絞る
「経理をAIで効率化する」という単位では手が動かせません。まず業務手順を可視化します。そのうえで、繰り返しが多く、判断基準が説明できる工程を選びます。JFEスチールが開発の工程のうち実装・単体テストだけにAIを当てたのが、この絞り込みにあたります。
実践ポイント:担当者3名に「1日のうち、この作業に何分使っているか」を1週間記録してもらいます。分解の粒度は「その作業だけを他人に引き継げるか」で判断します。
手順2|熟練者の判断の型を、先に言語化する
京都銀行の事例で効いたのは、AIの性能ではなく「融資判断で押さえるべき観点」を整理した工程です。熟練者が何を見て、どの順で確からしさを判断しているかを文章にします。ここが空白のままだと、AIの出力は評価できません。
実践ポイント:熟練者1名に、直近の判断3件を「見た情報/迷った点/決め手」の3項目で語ってもらい、そのまま書き起こします。90分で十分な素材が集まります。
手順3|削減時間の測り方を、導入前に決める
導入企業の59.8%が効果測定を行っていません(企業IT動向調査2025)。山形市の事例のように、対象の件数・期間・人件費換算まで決めてから始めると、次に広げるかどうかを数字で判断できます。
実践ポイント:指標は「1件あたりの処理時間」と「差戻し率」の2つで足ります。導入前の2週間分を先に測り、同じ数え方で比べます。
業務効率化の測り方や他社の進め方は、DX推進による業務効率化事例15選とDX事例15選|成功企業に学ぶ推進のコツでも具体例を紹介しています。自社の工程に当てはめて考えたい方は、業務プロセスのどこをAIに任せられるか相談するからお問い合わせください。現状の課題を整理するところから一緒に進めます。
手順4|合わなかった用途は、隠さず組み替える
JTは検索用途での不発を全社で共有し、生成・要約へ用途を移して利用者を約600名に広げました。うまくいかないPoC(試験導入)は起こりえます。分けるのは、その結果を共有して用途を組み替えられるかどうかです。
実践ポイント:PoCの終了時に「何ができなかったか」を1枚にまとめ、次に試す用途を2つ挙げます。報告書ではなく、次の実験の設計図として書きます。

スパイクスタジオの支援事例
三井住友DSアセットマネジメントでは、業務の属人化と手作業による非効率が課題でした。全社向けの基礎研修に加え、事務部門で伴走型のDX支援研修を実施し、現場が自分たちで業務の課題を洗い出して改善する形に切り替えています。取り組みの経緯は導入事例ページで公開しています。
業務プロセス再設計は スパイクスタジオにご相談ください
スパイクスタジオは、業務プロセスをAI前提で組み替える支援を行っています。
- BPRコンサルティング:戦略構想から実行設計まで約3ヶ月で、実装につながる設計図とロードマップを描きます
- AI人材育成:使う側・作る側・基盤層の三層に分けて育てる研修プログラムです
- Spike AI Agent Studio:専任のFDE(現場に入り込む担当エンジニア)とAIがチームになり、月額定額でエージェントを開発します
- ZUNO:図面・設計・積算など、熟練者の判断を継承する産業特化型AIエージェントです
「どの工程から手を付けるべきか分からない」という段階でも構いません。導入前の不安や課題を整理するところからご一緒します。業務プロセス再設計について相談するから、お気軽にお問い合わせください。
